東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)375号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実及び本件発明の要旨が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由(2)(二)について検討する。
1 成立に争いのない甲第三号証の一によれば、第一引用例には、次の構成からなる高温高圧装置の発明が記載されていることが認められる(別紙(二)第3図参照)。
「圧縮方向に平行な筒状部分及びピストンよりも大きな角度を有するテーパー状部分(以下「第一のテーパー状部分」という。)とこの両者の間にピストンのテーパー状部分と同一か又はそれより小さな角度を有するテーパー状部分(以下「第二のテーパー状部分」という。)を設けた圧穿台と、前記筒状部分に置かれた剛性の小さい圧縮係数を有する中空円筒状絶縁体(以下「中空円筒体」という。)と、直径が中空円筒体の内径と実質的に等しく、かつ圧穿台の筒状部分の径よりかなり小さい直径の截頭部分を有する一対のテーパー状ピストンと、圧穿台の第二のテーパー状部分とピストンのテーパー状部分との間に中空円筒体の両端部全面に接して置かれた一対のガスケツトからなり、ピストンの截頭面と中空円筒体の内壁とによつて反応室を形成し、反応室内に発生する高温、高圧が直接圧穿台の内壁にかからないようにした高温高圧装置」
2 前示当事者間に争いのない請求の原因二の特許請求の範囲に示される本件発明と第一引用例の右発明とを対比すると、両者は、一対の先細部分を有するピストンと、このピストンの進入する円筒壁を有する圧穿台が内壁の両端より水平軸に対する補強角度を有し、この圧穿台の内壁中央に剛性の中空円筒体を置き、さらに、圧穿台のテーパー状部分とピストンのテーパー状部分との間に中空円筒体の両端部全面に接して一対のガスケツトを置き、ピストンの截頭面と中空円筒体の内壁が形成する反応室内に発生する温度、圧力が直接圧穿台の内壁にかからないようにした高温高圧装置である点で一致し、本件発明においては、「圧穿台内壁の長さより相当小なる高さの」中空円筒体が用いられ、したがつて、この中空円筒体の両端部全面に接して置かれるガスケツトが先細ピストンの両端部に接し、かつ圧穿台の内壁内に位置して置かれる構成となつているのに対し、第一引用例の発明においては、中空円筒体の高さについて右の限定がない点において相違し、ガスケツトの配置について中空円筒体の両端部全面に接するものの、本件発明とは異なり圧穿台の第二のテーパー状部分とピストンのテーパー状部分との間に置かれる例が示されていることが認められる(別紙(二)第3図参照)。
3 成立に争いのない甲第一号証によれば、本件明細書には、中空円筒体に関し、「本発明は(中略)従来の高温高圧装置にない新しい構成要素、中空円筒体を高温高圧装置に導入し、これにより反応室内に発生する高温高圧を減衰して圧穿台内壁に加わる圧力を弾性限界内の力にする従来の装置にない新規の高温高圧装置である。この装置は圧穿台の内壁に加わる圧力を中空円筒体の厚みを加減することにより自由に変化させることが出来るため、中空円筒体の厚みを充分に厚くすることにより圧穿台内壁に加わる圧力を硬化鋼又は合金鋼の弾性限界内の圧力にすることが出来る。」(同一欄二一~三四行)、「中空円筒体はその上下両端部全面に接して置かれるガスケツトとの作用により反応室の圧力、温度がこの内壁に加つた場合、これを減衰して圧穿台の内壁に伝え、圧穿台壁に加わる圧力をその弾性限界内に置く作用をするものである。この中空円筒体に使用される材料はアルミナ、マグネシヤ、ジルコニヤ、トリヤ、ベリリヤ、チタニヤ等の剛性且つ圧縮係数の小なるもので真比重に近くまで充分焼成されたものが好適である。」(同号証六枚目補正事項5、三欄四〇~四五行)、「この中空円筒体は反応室7に発生した最高圧を減衰して圧穿台に伝える作用をなしており本発明装置の作用の中核をなすものである。又この中空円筒体は酸化物及び酸化物を主体とする耐火物であるため熱及び電気の絶縁を行い反応室内の高温度をも減衰して低温度として伝え、圧穿台に加わる温度を減衰して温度圧力の加重により圧穿台の耐圧を低下するのも防止するものである。」(同六欄三~一一行)との記載があることが認められる。
一方、前掲甲第三号証の一によれば、第一引用例には、中空円筒体に関し、「本発明において、小さい圧縮係数の電気及び熱の絶縁体は、截頭円錐状ピストンの延長線の外に示され、そして、ピストンの截頭面が圧力をかけるところに予め存在する。圧穿台の内壁には、ピストンの截頭面及び圧穿台の直径の自乗に反比例した減少した圧力しか受けない。この結果、截頭面の直径及び圧穿台の直径の中で適当な割合を設定することによつて、圧穿台の耐久度を著しく増加することができる。加えて、圧穿台の内壁は、電気及び熱の絶縁体で蔽われているから、反応室は、同じ直径で反応して形成される物質を充填したときに極端に減少した温度しか受けない。そして、内壁に加わる温度は、既に加わつた温度より高くなくその充填量が著しく増加される。」(同号証訳文五頁一六行~六頁一行)、中空円筒体「Eに用いられる物質は、電気的熱的絶縁体で小さい圧縮係数を有するもので次のようなものである。たとえばBeO、Al2O3、Nb2O5、Tn2O5、CaO、ThO2、ZrO2、SrO2、HfO2、またはTiO2のような酸化物、またはMgO、Al2O3、SiO2、及びまたはCaOからなるような耐火材料である。これらの材料は、真比重にできる限り近い比重を有していなければならない。」(同六頁二一行~七頁一行)との記載及び中空円筒体は「剛性がある小なる圧縮係数の物質で作つた」ものである旨(同二頁下から四行)の記載があることが認められる。
右の記載と前示本件発明と第一引用例の発明との一致点によれば、両発明における中空円筒体は、共にアルミナ等からなり真比重に近くまで充分焼成されたもので、剛性かつ圧縮係数が小さいものであるという材質の点で同じであり、圧穿台内壁に接して置かれ、ピストンの截頭面と中空円筒体の内壁により反応室を形成し、反応室内に生じた高温高圧をその厚みによつて減衰して圧穿台内壁に伝えるという目的、作用効果を有する点においても異ならないものであることが明らかである。すなわち、前示のとおり本件明細書に「従来の高温高圧装置にない新しい構成要素」であつて「本発明装置の作用の中核をなすもの」と特記されている中空円筒体は、前示高さの限定を除き、その基本的構成、材質、目的、作用効果ともすでに第一引用例に開示されているということができる。
4 前掲甲第一号証によれば、本件明細書には、ガスケツトに関し、「この中空円筒体の上下端面全面と一対のピストンの先細両端部とに接しかつ圧穿台の円筒壁の内壁内に位置するガスケツトは一般に軽く焼成し、気孔率の大なる蝋石系の耐火物及びこの耐火物の加圧に際する破壊を一様にするため、よくなました銅板又は鉄板で両側をつつむものが使用される。」(同号証六枚目補正事項6、四欄四二~四五行)、「このガスケツトの作用は反応室に発生する圧力を密封する作用と反応室を加熱するための電気の絶縁をする作用が主とし、更に反応物を加圧するためのストロークを従とする役目を有するものである。」(同五欄八~一二行)、「又内部的には中空円筒体の両端部全面に接するため中空円筒体の上下への膨脹による破壊を防止すると共に一対のピストンの先細部分の両端に接しピストンの先端部附近を補強しピストンの耐久度を増加させる作用を有するものである。」(同六枚目補正事項7)、「中空円筒体がその限界以上の温度圧力の状態で使用され得るのは上下の端面がガスケツトによつて支持され、且つガスケツトを通じて密閉状態の下で使用され、上下方向への膨脹による破壊を防止されているためである。」(同四欄三~七行)との記載があることが認められる。
一方、前掲甲第三号証の一によれば、第一引用例には、ガスケツトに関し、「G1及びG2は電気的熱的絶縁体からなるガスケツトである。ガスケツトの一方の面は金属で作成することができる。さらに、絶縁体からなるガスケツトが金属のガスケツトに包まれている場合には、圧力がかけられる際に圧縮がスムーズに行われるという利点がある。」(同号証訳文六頁五~九行)、「ガスケツトG1及びG2のそれぞれは、蝋石よりなり、その両側は〇・二五mmの鉄板製のガスケツトで包まれる。」(同七頁一一、一二行)との記載があり、ガスケツトは「封止作用をなす」(同二頁末行)旨の記載があることが認められる。
右の記載と前示本件発明と第一引用例の発明との一致点によれば、両発明におけるガスケツトは、共に蝋石からなりその両側は鉄板でつつまれたものという材質の点で同じであり、圧穿台のテーパー状部分とピストンのテーパー状部分との間に中空円筒体の両端部全面に接して置かれ、電気的熱的絶縁作用、密封作用、ピストンのストロークの円滑作用を行うという目的、作用効果を有する点においても異ならないものであることが明らかである。すなわち、本件発明のガスケツトは、前示配置位置における差異を除き、その基本的構成、材質、目的、作用効果ともすでに第一引用例に開示されているということができる。
5 ところで、前掲甲第三号証の一によれば、第一引用例には、前叙ガスケツトを配した高温高圧装置の例とともに、ガスケツトを用いない例として、その図面(別紙(二))第2図に示されるところの「圧縮方向に平行な筒状部分及びピストンよりも大なる角度を有する二つのテーパー状部分からなる圧穿台、圧縮方向に平行な該筒状部分に置かれた小さい圧縮係数を有する筒状電気的熱的絶縁体、並びにそれぞれが圧穿台のテーパー状部分の上部より小さい上部及び該筒状絶縁体の内径と実質的に等しく、かつ圧穿台の直径よりもかなり小さい直径の截頭部分を有する一対のテーパー状ピストンからなり、該ピストンの截頭部分と該圧穿台の筒状部分に置かれた該筒状絶縁体の内壁とによつて反応室を形成し、発生した高温及び高圧が直接該圧穿台の内壁にかからないようにした高温高圧装置」が開示されていることが認められる。この装置における中空円筒体すなわち筒状電気的熱的絶縁体Eは、ガスケツトを用いる前叙装置の中空円筒体と等しい材質で形成されるものであることは前掲甲第三号証の一から明らかであり、「高圧が加わつたときに変形しないような相当小さい圧縮係数をもつている」(同号証訳文四頁一〇、一一行)ものであるから、このガスケツトを用いない装置で加圧のためピストンを作動させた場合、ピストンのテーパー状部分と圧穿台の内壁部分に狭圧される中空円筒体の両端部が容易に変形しないためピストンの作動行程は一定限度に制約されることとなり、この作動行程をさらに延ばせば、中空円筒体は破壊され、反応室内の高温高圧の維持ができなくなることは容易に看取できるところである。
右事実と第一引用例のガスケツトを用いる前叙装置の構成とこれに関する第一引用例の前示認定の記載によれば、ガスケツトを用いる前叙装置は、中空円筒体の材質よりも圧縮がスムーズに行われる前示材質によるガスケツトを中空円筒体の両端部全面に接して置くことによつて、中空円筒体の上下への膨脹による破壊を防止すると共にピストンの加圧のための作動行程を延ばし、もつて、「圧力に対する抵抗及び容量を第2図に示す装置よりも増加させた」(甲第三号証の一訳文四頁一九、二〇行)ものであり、この装置においてガスケツトが置かれる圧穿台の第二のテーパー状部分の角度を第一のテーパー状部分の角度と異なり、ピストンのテーパー状部分と同一か又はそれより小さな角度とするのは、この部分の角度を第一のテーパー状部分の角度よりも鉛直に近くし、この圧穿台の第二のテーパー状部分とピストンのテーパー状部分と中空円筒体の端部とで形成される空間すなわちガスケツトが配置される個所を上方が狭く下方が拡がつた形状とし、これによつて、ガスケツトの密封作用を良好に行わせると共にピストンの作動行程を延ばすこと、すなわちピストンのストロークの円滑作用を有効に行わせることにあることが明らかである。このことからすれば、圧穿台の第二のテーパー状部分の角度が鉛直に近くなればなるほど、ガスケツトが配置される個所の上方が狭くなり下方が拡がり、ガスケツトの密封効果が向上することは当業者にとつて容易に看取できることと認められる。そして、この圧穿台の第二のテーパー状部分の角度がさらに小さくなり、ついに鉛直となるということは、取りも直さず、圧穿台の筒状部分の長さが中空円筒体の高さより大きくなること、すなわち中空円筒体の高さを「圧穿台内壁の長さより小なる高さ」にすることにほかならず、また、このようにするとガスケツトが必然的に圧穿台の内壁に接することになることは明らかである。そして、この種の高温高圧装置において先細ピストンの両端部に接するようにガスケツトを置くことは、成立に争いのない甲第五号証、乙第一二号証により認められるとおり、すでに昭和三六年に出願公告された第三引用例及び特公昭三六―二三四四九号公報に開示されている周知の技術と認めることができる。
そうとすれば、本件発明と第一引用例の発明との前示相違点に係る構成は、第一引用例に示唆されるところと右周知技術に従つて、当業者が容易に想到できる程度のことと認めるのを相当とする。
5 被告は、本件発明は第一引用例には示されていない前示相違点に係る構成によつて、第一引用例の発明では達成できなかつた「鋼製圧穿台を用いて大容量の高温高圧装置を製作することに成功した」旨主張し、その理由を中空円筒体の上下端面にそれぞれガスケツトが配置され、ピストンが作動すると、中空円筒体は上下のガスケツトを介して上下から強く圧縮され、その圧縮力は中空円筒体を上下方向に膨張せしめ破壊せんとする応力に対抗して、中空円筒体を維持すると共に、中空円筒体を介して圧穿台内壁に伝わる力を減衰するのであると述べる。
しかし、第一引用例の発明においても、中空円筒体の上下端面にそれぞれガスケツトが配置され、ピストンが作動するとガスケツトを介して上下から圧縮されるものであることは前叙のとおりであるから、この点における作用効果は大差がなく、特に第一引用例の発明において圧穿台の第二のテーパー状部分の角度を鉛直に近くすればするほどガスケツトの密封効果が向上することは当業者が容易に看取できることは前叙のとおりであるから、本件発明の右効果は当業者が当然予想できる程度のものといわなければならない。また、第一引用例には、前示のとおり、中空円筒体が圧穿台の内壁に伝わる力を減衰することにつき、「圧穿台の内壁には、ピストンの截頭面及び圧穿台の直径の自乗に反比例した減少した圧力しか受けない。この結果、截頭面の直径及び圧穿台の直径の中で適当な割合を設定することによつて、圧穿台の耐久度を著しく増加することができる」(甲第三号証の一訳文五頁一八~二一行)と記載され、中空円筒体の厚さを適当に設定することにより圧穿台の耐久度を著しく増加させることが示されているから、これにより鋼製の圧穿台の使用を可能にする程度に圧力の減衰を図ることは当業者がする設計事項の範囲を出るものとは認められない。また、前掲甲第三号証の一によれば、第一引用例の発明も従来の装置よりも大型化が可能であることが認められるから、この点においても本件発明の効果は当業者の予測できない顕著な効果ということはできない。
6 以上のとおりであるから、本件発明は第一引用例と周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものと認めるのが相当であり、これを覆えすに足りる資料は本件全証拠によつても認めることができない。したがつて、これと結論を異にする審決は、原告のその余の主張を検討するまでもなく、違法として取り消しを免れない。
三 よつて、原告の本訴請求を理由があるものとして認容する。
〔編註その一〕 本願発明の特許請求の範囲第一項は左のとおりである。
一対の先細部分を有するピストンと、このピストンの進入する円筒壁を有する圧穿台が内壁の両端より水平軸に対する補強角度を有し、更にこの圧穿台の内壁中央に位置し圧穿台内壁の長さより相当小なる高さの剛性の中空円筒体を置き、更に一対の先細ピストンの両端部と中空円筒体の両端部全面とに接しかつ圧穿台の内壁内に位置する一対のガスケツトを置き、ピストンの截頭面と中空円筒体の内壁が形成する反応室内に発生する温度、圧力を中空円筒体の作用により減衰して圧穿台内壁に伝えることを特徴とする高温高圧装置。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙(一) 本件明細書図面
<省略>
別紙(二) 第一引用例図面
<省略>
<省略>